井戸とトイレ問題

「トイレを流す水をくれ! 便器は山もり 学校ではプールからバケツリレー」

これは阪神淡路淡路大震災発生の9日目(平成7年1月25日)の「夕刊フジ」の新聞の見出しである。

「地震の一撃さえしのぐことができるなら、井戸とカマドとボットン便所があれば何も怖くない」

長岡造形大学名誉教授 平井邦彦の言葉 (北斗出版『井戸と水みち』(水みち研究会)より引用)

震災が発生すると長い期間断水で水洗トイレが使えなくなる

この間、被災者は応急的にあてがわれた仮設トイレに依存せざるを得なくなる。しかし、その数が足りないことに加え、くみ取りなどの対応が施されていないために、トイレに行けなくなってしまう。このような悲惨な状況を回避するため、各地の自治体では、震災時のトイレの水に対応できる井戸の普及を進めている。

阪神淡路大震災のもう一つの悲劇

「トイレ問題」で多くの人たちが亡くなったことを、あなたはご存じだろうか?

避難所ではトイレを流す水がない!

⇒ トイレの使用を我慢する ⇒ 水分の摂取を控える ⇒ 血栓症患者が多発する ⇒ やがて死に至る・・・その数は、震災後に亡くなった992人中の約3割にものぼった。

もし、近場に井戸があったらこんな悲惨なことは起こらなかったにちがいない。

震災時のトイレの問題

学校避難所でもトイレ混乱

伊丹市全小学校に 災害時のトイレ対策に

完成したばかりの井戸から水を出す伊丹市立瑞穂小の児童=兵庫県伊丹市提供

伊丹市は28日、市内全17小学校に避難所用井戸(防災井戸)の設置を完了したと発表した。災害時に水不足でトイレが不衛生になり、避難者が体調悪化や感染症などで死亡する事態を防ぐのが目的。全ての小学校に井戸を設置したのは県内初となる。

県が2014年にまとめた「避難所等におけるトイレ対策の手引き」では、阪神大震災や東日本大震災で、こうしたトイレの問題が・・・(以下略す)


(毎日新聞2017年3月1日 地方版)

避難所無秩序状態とトイレ問題

六甲小学校でも早朝から被災した多くの住民が学校内に避難してきた。「体育館を開けて欲しい」と言われカギを開けた。グランドにいた住民が一斉にトイレに駆け込んだ。体育館の水洗トイレも校舎内の水洗トイレ(便器)もたちまち「便のてんこ盛り」の状態になった。

本山南中学校では、震災当日八時半頃に(先生が)学校に到着すると、学校の鍵は開けられ、保健室には遺体が五体ほど置いてあった。校舎内の水洗トイレの便器は「便のてんこ盛り」。グランドでは避難住民が「素掘りの穴」を作り排便していた。震災三日目頃から中学校のプールの水(総容量約350トン)をトイレの糞尿を流す用水として使い始めた。が、洗濯にも使ったため水量が激減。二日間しか持たなかった。

吾妻小学校では、屋上プールの配水管が破壊して、プールには一滴の水もなかった。そこで子どもたちが飼っていた金魚の池の水をトイレに運んで乗り切った。教頭は「校庭に池のあった学校とそうでない学校ではトイレ用水の対応が違っていたようだ」と語っていた。


山下亨 著『トイレが大変! ー災害時にトイレ権をどう保証するかー』より引用)

井戸を利用したトイレ対策

江戸川区では災害時の避難所のトイレの水を確保するため、区内の全小中学校106校に井戸を掘り、手押しポンプを設置している。

世田谷区では避難所に指定された中学校87か所と区立公園6か所にマンホールトイレとセットにして手押しポンプ付きの井戸を設置している

横浜市の都筑区役所に設置された井戸ポンプ付きマンホールトイレ。井戸水を地下タンクに貯め、便器横の小型手動ポンプで水をくみ上げ汚物を流す。

高層マンション 地震に備え井戸

住民の意見集約と費用が課題

最近では新築マンションに防災井戸が「標準設備」になりつつある。分譲マンション最大手の住友不動産は、東日本大震災以降に建設した総戸数200戸以上のマンションにおおむね防災井戸を備えている。掘削費用が販売価格に薄く載せられ、住民の不安も減らせるからだ。中堅業者も「井戸完備」をPRしたマンションを続々と売り出している。大手不動産会社の幹部は「もはや制震・免震は当たり前。マンションの地震対策は、被災後に起こりうる不便をいかに減らすかに軸足が移っている」と語る。


(朝日新聞 東京本社版夕刊2015/3/23)

加古川グリーンシティマンション

兵庫県加古川市にある加古川グリーンシティマンションの住民で組織された自主防災会は、阪神淡路大震災後に「マンションの災害対策」に徹底的に取り組んできた。住民がお金を出し合い、2006年5月に深さ30m、総設備費用 350万円の防災井戸を完成した。防災井戸の周りには、自然と世代間交流が行われ、「水の環から人の輪」がつくり出されている。(【厚生労働大臣賞】 第9回日本水大賞受賞)

スカイフロントタワー川口

埼玉県川口市にある29階建て世帯数177戸のスカイフロントタワー川口は、2015年1月に約300万円かけて敷地内に防災井戸を完成させた。停電しても水を汲み上げる人手さえあれば、全世帯の必要最低限の生活用水を賄える。東日本大震災では、このマンションも断水した。「公助に頼り切らない地域防災」を目指すという。


(朝日新聞夕刊2015/3/23)

災害時の井戸の活躍

阪神淡路大震災発生より1月28日までの約10日間、被災地で井戸はどのように使われたのだろうか。朝日・毎日・読売3紙の大阪本社版より拾ってみよう。

1月17日: 芦屋市内では、消防車が到着してもホースから水が出ず、近くの井戸よりバケツで水を汲んで消火にあたった。

1月20日:全域断水の芦屋市で18日より電機が復旧。深さ7メートルの民家の井戸をポンプで汲み上げ、200人が利用した。

1月24日:菊正宗酒造は同社の「宮水」井戸場(西宮市)で平日の午前9時~午後3時の間、宮水を無料提供。

1月28日:神戸市兵庫区で、戦前に掘った井戸が生活用水として使われている。1945年の空襲のときも同じ井戸水で消火した。


(北斗出版『井戸と水みち』(水みち研究会)より引用)