井戸と地下水

大切なものは目に見えない

童話『星の王子さま』に、こんな言葉がある。

「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているから。大切なものは目に見えないところにある」

普段、私たちが目にすることのできない地下の水は、井戸という「小窓」を通じて、はじめてその存在を確認することができる。

水循環に割って入る人間

山に降った雨は、川や地下水となって大地を潤し、やがて海に流れ込む。それが蒸発して雲ができ、再び雨となって地上に戻ってくる。この地球規模の大きな「水循環」の中で、人間は川をせき止めダムを作り、その水を浄水場に送り、水道水として使う。使用された汚水は下水管を通って下水処理場に送られる。そこで処理された水は川に放流され、海へと流れていく。このように人間は大自然の「水循環」の中に割り入って生活しているのである。

東京の飲み水はどこから?

東京都の水道水は利根川と荒川水系で78%を占め、多摩川水系は19%と少ない。それ故、都民は大半を群馬県の水を飲んでいることになる。その他3%は深井戸などの地下水である。

(東京都水道局資料より)

東村山浄水場

かって新宿にあった淀橋浄水場は、東村山浄水場に移転され、昭和35年から給水が開始された。面積26万㎡の敷地には各種処理池が碁盤の目のように配置されている。

多摩川上流水再生センター

多摩地区の6市2町から出た日量約15万トンの雨水、汚水は、処理された後に、多摩川に放流され、その一部は「清流復活事業」として、玉川上水、(下流で分岐して) 千川上水、 野火止用水に放流される。

「思いがあふれ湧水となる」国分寺崖線

国分寺崖線の湧水

立川市、国分寺、小金井市に連なる崖を「国分寺崖線」という。古多摩川が10万年以上かけて武蔵野台地を削り取ってできたもので、いまでも所々に雑木林や湧水などの豊かな自然環境が残っている。

真姿の池

崖線下の湧水池。嘉祥元年(848年)絶世の美女といわれた玉造小町が病気に苦しみ、病の平癒を願い全国行脚をした際に、武蔵国分寺で願をかけたところ、「池で身を清めよ」との霊示を受けて快癒したとの言い伝えがある。

お鷹の道沿いの湧水

崖線下にある「お鷹の道」沿いの湧水群は、環境の良さを評価され、「環境省選定名水百選」に選ばれた。また、東京都 の「名湧水57選」のひとつで、夏になると近所の子どもたちの水遊び場となる。

地下水について

不圧地下水と被圧地下水

地下水には、地層の浅いところにある「不圧地下水」と、深いところにあって圧力をうけている「被圧地下水」の2種類がある。浅井戸は前者の、深井戸は後者の水を吸い上げている。

季節による水位低下

地下の水位は季節によって変化する。降雨の多い時期は地下水位が高くなり、降雨の少ない時期は地下水位が低下する。春先に井戸水が枯渇する現象もこの理由による。

地下の模式柱状図

ボーリング調査で地下の地層を模式的に描いた図を地下模式柱状図という。小平市では上部約12メートルまで関東ローム層があり、その下部に地下水を含む粘土質砂礫層がある。井戸はこの層まで掘り進まなければ水を得られない。

水位の低下と水涸れ

東京都江東区の地盤沈下

地盤沈下とは、地下水を大量に汲み上げることによって、地下水位が下がり、地表面が沈んでいく現象をいう。江東区南砂では、大正7年以来、4.5メートルも沈下したが、現在では沈下はほとんどみられなくなった。

武蔵野地区の揚水量と地下水位変化

武蔵野地区3市の深井戸による揚水量と、それに伴う地下水位の変化を示したグラフ。武蔵野市の2号井の地下水位は急速なペースで低下している。

(守田優 著「地下水は語る」より引用)

井の頭池 善福寺池 三宝寺池

1970年代に入って武蔵野三大湧水池といわれた井の頭池、善福寺池、三宝寺池の水源が次々と涸れてしまった。理由は「被圧地下水」の水位低下と考えられている。現在は3つの池とも井戸から水を汲み上げ池の水を満たしている。

地下水の涵養

雨水のゆくえ

地表面付近の土層・植生・降水量・降水の強さなどの条件によって降った雨の行方は千差万別であるが、単純化した言い方では、約3分の1は蒸発し、約3分の1は地表水として流れ去り、残りは地下へ浸透する。小平市周辺では河川が少ないのでその量はもっと多い。


(「小平井戸の会News」127号)

地下水の涵養

地層の浅いところにある帯水層に対する補給は地域によって違いがあるが、全国平均で一日当たり1.1mm、年間400mmである。地下水循環の観点から見ると、降雨によって地下水を涵養した水は、地下水が河川に流れ出る水量にほぼ等しくなると考えられる。


(地下水ハンドブック 建設産業調査会 1998)

雨水浸透桝

雨水浸透枡とは、屋根に降った雨を下水道や河川に流さずに地下に戻すための排水施設である。平成28年度の小金井市の雨水浸透枡の設置軒数は、15,866軒で61.6%、浸透枡の設置数が71,948個(小金井市ホームページから)。これは事実上世界一の設置率となっている。

井戸のことをもっと知ろう

井戸は地震に強い

東日本大震災による井戸の被害調査結果

東北6県で合計261井戸の調査を実施した結果、その中で、地震や津波などの影響を受けず、従来通り使用できている井戸が213井戸(全体の 81.6%)あった。一方で、使用不能となった井戸が14井戸(同5.4%)、障害が現れたがその後 も使用している井戸が34井戸(同13.0%)あることが分かった。

しかし、地震動そのものにより構造上の被害を受け使用不 能となった井戸はわずか3井戸しかなかった。これは調査井戸の1.2%であり、あれだけの大地震に揺すられたにもかかわらず、98.8%の井戸は 地震発生後もその機能を維持できた。今回の調査により、井戸は地震の揺れに対して強い 構 造を有することがわかり、災害時であっても貴重な水を供給できる大変重要な設備である ことが証明された。


(平成24年7月 社団法人 全国さく井協会の調査報告書より引用)

地下水は誰のもの

日本では地下水は土地所有者のもの

日本に地下水を管理する法律はない。川の水、湖沼の水などの地表水は「河川法」に基づいて水利権が設定されている。しかし地下水には明確な決まりごとがなく、民法第207条で規定されているだけである。地下水を地権者のものという「私水論」を採っている国には、米国、英国、フランスなどがある。一方、社会の共有財産とする「公水論」を採っている国はイタリア、ドイツ、スペインなどがある。

水循環基本法が施行されたが

近年、北海道などのリゾート地では、外資による水源林の買収が問題になっている。その対策として平成26年7月に「水循環基本法」が施行された。だが、すでに多くの水源林は外資のものになってしまっている。