井戸と水の需給

災害時の水の供給は大丈夫か?

内閣府によると、首都直下地震が起きた場合、電力の復旧に7日、水道の復旧に30日かかるとされている。小平市議会でも、過去に何度か災害時の水の供給に対する質問があった。市の回答は、浄水場、貯水槽、それに学校のプールと家庭のふろ水で賄えるとの見解であった。ここでは人々が生活するに必要な水の量と、災害時の水の供給について考えてみたい。また、供給を補完する学校プールと井戸についても考えてみたい。

生活に必要な水の量

東京都水道局によると、都民1人が1日の生活で使う水は219リットルである。トイレメーカーのTOTOのホームページでは1日186リットルで、60%強を風呂とトイレで使われているそうだ。(国土庁の資料ではトイレ水だけで1人1日36リットル必要)。災害に備えて一人1日3リットルの飲料水と最低20リットルの生活用水を3日分備蓄するのがよいとされている。しかし断水が3日でおさまる保証はどこにもない(小平市の場合、想定では復旧に1か月以上かかるとされている)。市は風呂に水(約200リットル)を貯めておくように呼びかけている。しかし日頃の洗濯水としての使用や、清潔な浴槽の維持管理、また、小さい子どもの安全のことを考えると、風呂に常時水を貯めることは現実的でない。

災害時の水の需要と供給

小平市の震災時の水の需給のシュミレーション

小平市は、震災時の水は今の供給体制で間に合うとの見解だ。そこで、市が想定する水道の断水率55.5%の数値を使ってシュミレーションしてみた。現在の市の人口は約18万8千人(2017年)。その内の10万4千人(55.5%)を断水の被害者と想定する。1人の飲む水は1日3リットル、合計312立方メートル。生活用水は20リットル、合計2,080立方メートル。これが被害者全員の1日の水の需要量である

供給の方はどうだろう。市の発表によると浄水所と貯水槽で8,330立方メートル。28ある学校の25mプール全体で8,400立方メートル。これが市の水の備蓄量である。飲み水と生活用水を一緒にして、需要に対する備蓄は7日分。市は水道復旧に1か月以上かかるとみている。楽観的に15日としても、その半分の期間しかもたないことになる。ここで他市からの救援をあてにしたいところだが、巨大都市全体が被害をこうむる首都圏直下地震では、地方都市での災害のようにすぐの救援をあてにするのは難しい。

そこで井戸の出番である。1基の井戸の供給量は仮に1日12時間使って7立方メートル。小平市には現在82基(2017年)の震災用井戸がある。これを200基まで増やせば、断水期間中の供給量は8日分積み増しされ、備蓄と合わせて復旧までの水はなんとか確保できる。やはり最後に頼りになるのは井戸。それもお隣の西東京市なみの井戸の数が必要だ。

急ぐべき学校プールの耐震化

学校のプールは地震に弱い

学校のプールは、大震災時の消火用水とは別に、被災者の生活用水としても重要や役割を果たす。神戸市教育委員会の調査では、阪神淡路大震災のときにプール設置校257校中、半数の126校のプールが被害を受けた。その内水槽亀裂62校(24%)に達した。阪神沿線のプール被害の内コンクリート製プールの被害は24校中18校(75%)の多きに達している。


(都市防災研究会代表補佐 大間知倫氏の論文より引用)

公益社団法人日本プールアメニティ協会が実施した東日本大震災の学校プールの被害状況のアンケート調査では、1,107か所(学校プール:1,041、公共プール:66)のうち、被害を受けたは518か所(47%) 、特に被害は受けていないは589か所(53%)であった。

東京都の公共の井戸

東京都の井戸行政アンケート調査の結果より

東京都は災害時の水の確保のためにどれだけの井戸を確保しているだろう。2018年9月に「小平井戸の会」が東京都23区・多摩26市に対しアンケート調査を行った結果(回収率100%)、避難所や公園などに公共の災害用井戸をもっている自治体は、区部で22区(96%)、市部で17市(65%)であった。この結果から、多くの自治体は災害時の水の供給源の一つとして、井戸を積極的に設置しようとする姿勢がうかがわれる。ちなみに小平市に公共の井戸はない。

井戸の利点は、貯水槽に比べて建設コストがかからないこと、場所がとらないこと。それゆえ必要な場所にピンポイントで設置できることである。また、手押しポンプを併設しておけば、停電時でも水を得ることができる。しかし、何といっても井戸の最大の利点は、貯水槽と違い、地下には水がいくらでもあり、貯めておく必要がないということだ。(写真は江戸川区の防災公園内に設置された井戸)

東京都の民間の井戸

公共の井戸とは別に各自治体においては、民間の井戸を災害用井戸として登録する制度がある。先に述べたアンケート調査では、区部で18区(78%)、市部で23市(89%)の自治体で災害用井戸の登録制度があった。人口比で民間の井戸の多い自治体は、多い順に区部では世田谷区、中野区、豊島区、練馬区、杉並区、市部では羽村市、昭島市、西東京市、狛江市、武蔵村山市であった。最も多い世田谷区では、人口658人に一つの民間井戸がある。ちなみに小平市の場合は人口2,190人に一つである。

給水車の前で長い列

仙台市で被害に遭われた方からのメール

「このたび拙文を貴会の資料としてお使いいただけるとのこと、ありがたくも恥ずかしいものもあります。震災直後の動転し、途方に暮れている中で、お世話になった方々に御礼を忘れないようにとメモ程度に書きとめた個人的なものですので、どの程度お役に立てるかと不安に思っておリましたが、当時の市民の状況の一端をご理解いただければ幸いです。

特に水道につきましては、市内でも復旧が遅いほう(約2週間後)となりましたので、その間大変苦労しました。給水車はタンクの容量が小さく、水量が少なく、時間がかかったような記憶があります。タンクの容量が小さいためかすぐになくなってしまい、長蛇の行列を前にして「なくなりました」ということもしばしば。並んでいる人たちは、給水車が水道局に戻ってまた水を夕ンクに入れ、給水所に来るまでさらに1時間くらい待たなければならず、大変な負担でした。全市的に給水車が出動する機会というのはそうそうないので、どの程度の性能のものを、どれくらい台数用意するかというのは難しいものがありますが、どんな事態でも ( 道路や施設が破損するなどしても ) 直ちに、何らかの形で応援を受けられるような連携は考えられておくべきだと思いました。もちろん私たち市民も、支援をあてにするばかりでなく、水を常備したり、使える給水所の候補、穴場 ( 水の使用をお願いできるお寺や公園の井戸など ) をチェックしたりする必要があるでしようが。

「小平の井戸の会」の活動がより多くの方々に水の大切さを考え直すものとなられますよう願ってやみません。」

(2017/05/14 :仙台市在住の方のメール)

ノーマルシー・バイアス

災害に対して人々は危険性を低く見積もる傾向がある

「自分だけは大丈夫だ、何とかなる!」これをノーマルシー・バイアス(正常化偏見)という。東日本大震災で福島原発を襲った15メートルの「想定外」の大津波も、もとはと言えば東京電力の「安全神話」による「想像力」の欠如だった。どこかの市長が言う「このまちは大きな河川も崖もないとても安全なまち」というのも「安全神話」である。地震大国・日本に安全なまちなどどこにもない。