井戸の情報公開

「災害用井戸」について

「小平井戸の会」の調査によると(2018年9月実施)、東京都23区・多摩26市の中で、青梅市と福生市以外のすべての自治体において「災害用井戸」が確保されている。「災害用井戸」は自治体によって名称が異なり、小平市では「震災対策用井戸」と名付けている。

「防災マップ」について

上記の92%の自治体で「防災マップ」が作られ、ほぼすべての自治体で紙製とスマホの両媒体で情報が提供されている。マップ上に「災害用井戸」のマーク(井)を表示している自治体は、区部で7区、市部で15市。ほぼ半数の自治体で井戸の表示をしている。左図は小平市の「防災マップ」。毎年更新されている。

災害時に必要な井戸の所在地

井戸の所在地を公開しなければ、災害の備えにならない

仙台市は、過去の大きな震災の経験から、市民の生活用水確保のために、市内254か所の民間所有の井戸を「災害応急用井戸」に指定した。このとき、市は井戸に標識プレートを表示しただけで、所在住所までは公表しなかった。災害時に人々が井戸に殺到するのを懸念したというのがその理由である。

東日本大震災が発生したとき、仙台市内の多くの地域では一週間以上も断水が続き、人々は水を求めて近くの井戸を探しまわった。中には隣の家に井戸があることさえ知らない人もいたという。そこで地元の町内会の連合会は、井戸所有者に許可を得て、手書きの「仙台市災害応急用井戸マップ」を作り、誰でも見られる最寄りの集会所に掲示した。(写真は地元紙「河北新報」より引用)


(『小平井戸の会News』Vol.19より)

進まない井戸の情報開示

マップを見ても行けない井戸

2019年度版の小平市「防災マップ」に、95基の「震災対策用井戸」がマークで表示されている。しかし、井戸マークを頼りに実際に現地に行ってみても、目的の井戸にたどり着くのは難しい。毎年井戸調査を行っている当会でさえ、場所が特定できず、未だ訪問できない井戸が幾つかある。市の担当部署(防災危機管理課)に尋ねてみても、個人の所有する井戸の所在住所は「個人情報」であるという理由から決して教えてくれようとしない。震災時にたどり着けない「震災対策用井戸」は、市民にとってなんの存在価値もないと思うのだが。

自治体の情報公開対応例

杉並区の井戸マップ「すぎナビ」

杉並区のホームページの防災マップ「すぎナビ」では、井戸マークをクリックすると井戸の所在地の住所がポップアップで表示される。

西東京市の井戸住所一覧表

西東京市のホームページから、災害用井戸の所在地の住所一覧を閲覧することができる。

各自治体の井戸の標識板

東京都の各自治体が指定した「災害用井戸」の名称(例)

・小平市 「震災対策用井戸」(標識板は「震災用井戸」)

・西東京市 「震災用井戸」

・目黒区 「震災時協力指定井戸」

・世田谷区 「震災時井戸水提供の家」

・練馬区「ミニ防災井戸」

・小金井市 「震災対策用井戸」

・東久留米市「震災対策井戸」

・葛飾区 「災害時協力井戸」

・杉並区 「震災時の井戸協力の家」

・武蔵野市 「災害対策用井戸」

練馬区の災害用井戸標識

杉並区の災害用井戸標識

西東京市の災害用井戸標識

小金井市の災害用井戸標識

井戸標識の掲示

小平市の井戸標識掲示の状況

「小平井戸の会」が毎年行う井戸調査によると、市の指定した標識板を掲示している割合は半数弱である。掲示してあっても、標識板が道路から見えない場所に置かれたり、植木に隠れて見えない場合が多い。また、標識板自体も経年劣化で文字盤が錆びて読みにくいものが少なくない(写真は錆び付いて文字が読めない標識板)。

小平市は掲示板のオプションとして、震災時の時にだけ掲示する「吊るしの小旗」を支給している。普段は掲示ないため、震災時にどれだけの市民が気が付くか、はなはだ心もとない。また、混乱の中で、どれだけの井戸所有者が旗を掲示してくれるかわからない。

井戸の情報公開に向けて

情報公開の実態

当会の調査によると(2018年9月実施)、東京都23区・多摩26市の中で、「災害用井戸」の所在地を公開している自治体は18区、15市であり、区部の82%に比べて市部は52%と少ない。なかには井戸の所有者名まで公開している自治体もあった(6区、3市)。情報を公開しない理由としては、個人情報であるという理由が最も多かった。

情報公開を嫌がる井戸所有者

当会が毎年行う井戸現地調査でのヒアリングによると、井戸を所有する半数以上の方は情報公開に否定的である。その理由は震災時の「井戸の使用ルール」がなく、見知らぬ大勢の人が押し寄せてくるかもしれないという心配である。中には自治会を通じて限られた地域に限定した情報公開ならいいという意見の方も多かった。自治体は井戸所在地の開示の必要性を認識し、仙台市であったような震災時に市民が井戸探しに右往左往しないような仕組みを考えてほしい。